4 月、山は厳冬期から残雪期へと移り変わる季節。
北アルプスの中でも屈指の人気を誇る燕岳も、春の登山シーズン前の平日ともあって、ほかに登山者はなし。
たっぷりと雪が降った直後の深い雪を掻き分けて、北アルプスの女王・燕岳の絶景を独り占めしてきた。
冬季の燕岳は、宮城ゲートで通行止めになっており、10km 以上の舗装路を歩いて中房温泉を目指す必要がある。
冬季のアルプス登山あるあるだが、登山口に着くだけで一苦労だ。
想像以上に雪深く、しばらく誰にも登られていないようでトレースもない。
夏にはスイカを振る舞ってくれることで有名な合戦小屋も、これだけ雪に埋もれている。
トレースがない中、ウサギの足跡に導かれて稜線を目指す。
稜線が近づいてくると、木々がまばらになってダケカンバ主体になってくる。
日没時間を過ぎ、決死の思いで稜線に出ると、槍ヶ岳の姿が目に飛び込んできた。ここまで諦めなかったご褒美だ。
燕山荘の冬季小屋でひとり寂しく夜を過ごす。
本当に誰にも合わなかった。自分しかいない山小屋は寒い。
防寒が足りず、レインウェアの上を足に履いて暖をとった。
翌朝。素晴らしい天気。朝の北アルプスの絶景を独り占め。
表銀座のモルゲンロート。
これほど現実離れした山の風景を見ることができたのは初めてだ。雪山の朝はすごい。
荷物を軽くして燕岳の頂上へ。
この山に初めて訪れるのが、誰もいない雪に閉ざされた季節になるとは思ってもみなかった。
燕岳の頂上から燕山荘に戻ってくることには、太陽が高くなって周りの山は白く輝いていた。
冬の槍ヶ岳はエキスパートの領域だろう。
昨日の自分の足跡を辿って下山する。
これほどの豪華な風景を独り占めできた贅沢は忘れないだろう。
体力的にもかなり厳しい登山であったが、それだけのご褒美があった。